過払いの請求は家族に秘密にできるか。

こんにちは、大阪京橋の司法書士小林一行です。

最近、ご家族に内緒で業者に過払いの請求をしたいとのご依頼がありました。

この点については、極力ばれないようにするものの、絶対に秘密を保証することはできない事を依頼者の皆さまに事前にご了解いただいた上で手続きを進めるようにしています。

なぜなら、過払い訴訟を起こした場合、逆に原告相手に調停を起こしてくるような業者があり(アイフルとか)そのような場合ご自宅の住所に調停申立書が届いたりするケースがあるからです(もちろんこのような半ば嫌がらせをしてくる業者に対しては慰謝料の請求も含めて毅然とした対応をする必要がありますが)

それともうひとつ業者が第一審で敗訴した後に控訴した場合も問題が生じえます。民事訴訟法289条は控訴状は、「被控訴人」に送達しなければならないとしているところ、同103条は送達場所について送達を受けるべきものの住所等としているため、控訴条が原告の住所に届く可能性があるからです。

この点、裁判所によっては申請すれば第一審の代理人の事務所へ控訴状を送達するという運用をしてくれる事もあるようです。

しかし、これは事実上そのように運用しているというだけであって、被控訴人にとって送達方法の選択権を法的な権利として認めているわけではありません(同104条1項により住所と異なる送達場所を裁判所に届ける事ができますが、控訴審が係属する前でもこのような届出が認められてるわけではないように思います)。

この点は、被控訴人に送達方法を選択させる権利(たとえば裁判所に控訴状を取りに行くとか)を認めるように法改正をしていただきたいところです。

そもそも、これだけ個人情報の取り扱いが声高にさけばれている中、重要なプライバシーを含む裁判書類について自宅に届ける事を原則とする民事訴訟法の規定はいかがなものでしょうか。

確かに、同条の規定は、控訴状をしっかり被控訴人に送達する事で、同人に控訴審を争わせる機会を保証するものであり、その立法趣旨はわかります。

しかし、わざわざ自宅に送らなくても被控訴人が裁判所に控訴状を取りにいくという方法でもいいはずです。運転免許証等の身分証明書を提示した形での受け取りにすれば裁判所が第三者に控訴状を渡してしまうというリスクも発生しません。

裁判所としても、控訴状を郵送する手間が省けるという合理性もあります。

確かに第一審の訴状の場合は裁判所が被告の連絡先として住所しか把握していない場合もあり、そのような場合は訴状を郵送するよりほかないでしょう。

しかし控訴の場合は別論です。

なぜなら前提として第一審が行われているからです。その場で原告や被告、その代理人といくらでも控訴後の連絡手段を打ち合わせてしておく事はできるはずです。

そのため、下記のような条項を送達の条項に盛り込む事が検討されていいのではないでしょうか。

「裁判所は被控訴人に対して、控訴状の送達をする場合、第一審において当事者から携帯電話等による通信機器による連絡を希望する旨の申告がある場合、同連絡先にその送達方法についての確認の連絡をしなければならない。ただし同連絡先へ連絡をしたにも関わらず被控訴人が3日以内になんらの回答もしない場合は、同人の住所へ控訴状を送達することができるものとする。」

上記のような改正がされれば、まずは裁判所は被控訴人の携帯へ連絡する義務が生じますし、もし同人が裁判所からの電話を無視すれば、そのときはじめて控訴状を自宅へ送ることで訴訟の遅滞も防ぐ事ができます。

このような形で控訴状の受取方法について被控訴人に選択権を認めるのが個人情報保護法やプライバシーの理念に合致します。

そもそも裁判を受ける権利は憲法32条で認められているものです。このような憲法上の権利が、ご家族に知られる事を回避するため、事実上制限を受けるというのはよろしくないのではないでしょうか。

徹底的な個人情報保護で、国民が裁判に不安を持たずに権利行使できるようになることが望まれます。

ハンコ代の要求と抵当権消滅請求

こんにちは。大阪京橋の司法書士小林一行です。

最近大阪は寒い日が続きましたね。体調管理にはぜひ気をつけて今週もはりきっていきましょう。

さて、今日は任意売却で生じる問題点、ハンコ代とその対応策についてブログにしたいと思います。

1、後順位抵当権者へのハンコ代

例えば1番抵当権の被担保債権が3000万円、2番抵当権が2000万円として、任意売却における不動産の想定売買価格が1500万円とします(諸経費とかは事例の単純化のために省略します)。

この場合、売買代金が1番抵当権の残債に満たない以上、当然に後順位抵当権者は代金の分配に与ることはできません。

とはいうものの、実際は後順位抵当権者としては抵当権までつけてるわけですし、タダで抵当権を外すのはばからしいので、抹消の書類に署名するかわりに10万円くらい売却代金の中から払ってくださいと主張してきます(いわゆるハンコ代)。

2、法外なハンコ代への対応策

20万円くらいなら想定の範囲内なので、一般的には売却代金の中から支払われるでしょう。しかし後順位抵当権者が傲慢な人で200万円くらいのハンコ代を請求してきたらどうでしょうか。

さすがにこのような法外な請求に応じる必要はないでしょう。大前提ですが、そもそも1番抵当権者が全額の満足を受ける事ができない不動産の時価において2番抵当権者が実質的に配当を受けるというのは担保法のルールからしておかしな話です。

とはいっても抵当権がいつまでも残っていては市場での不動産流通が著しく阻害されてしまいます。

こういった無理筋なハンコ代を主張する後順位抵当権者への対応策として「抵当権消滅請求」制度を利用することが考えられます(民法379条以下)。

ブログなので、同制度の説明は割愛しますが、この権利を買主が行使することにより、後順位抵当権者は競売を申し立てるか、買主が提案する承諾料を納得するかの二者択一の選択を迫られる事になります。

それでは、後順位抵当権者が徹底抗戦で競売を申し立てた場合はどうなるのでしょうか。

通常、競売では任意売却に比べて、落札価格は下がるので、後順位抵当権者が分配に与ることができる可能性はさらに低くなります。

またそもそも後順位抵当権者の競売申立ては無剰余として取り消される可能性もあります(民事執行法63条)

取消しになれば、後順位抵当権者はみなし承諾をしたことになるので(民法384条4号)、これにより後順位抵当権者の抵当権は無配当により消滅します。そのため抵当権消滅請求の主張は通った事になります。

いずれにせよ、後順位抵当権者にしてみれば、最初に常識的なハンコ代をもらっておけば、いくらかでも回収できた債権が全く回収できない事になってしまうわけです。

3、落札されない場合のリスク

もっともここまで強気でいけるのは競売で不動産が落札される事を前提にしているからです。3回入札を実施しても落札されなければ、やはり競売が取り消される可能性があり(民事執行法68条の3)、この場合における競売取消では抵当権のみなし承諾の効果は発生しません(民法384条4号のかっこ書きにおいてかかる場合の取消を排除しているため)。

そのため、このような場合は、競売をしたにも関わらず抵当権がはがれないままになってしまいます。

しかし、不動産が競売で売れる見込みがあるのでしたら、抵当権消滅請求は、無理なハンコ代を請求する抵当権者への抑制力として働くのではないでしょうか。

4、抵当権消滅請求の制度としての合理性

ちなみに、抵当権消滅請求の制度は、いつ抵当権を実行するかを自由に決める事ができるという抵当権者の期待を害するものであって制度上問題視する見解もあるうようです。

例えば、不動産の時価が上昇局面にある場合、抵当権者としては時間をかけて放置しておけば、不動産の時価が被担保債権額を上回る可能性があります。抵当権消滅請求は実行時期を強制的に前に持ってくるので、そういった抵当権者のいつ実行するかを自由に決める事ができるという期待を害するというものです。

しかし、バブル期ならばともかく、不動産価格が右肩上がりで上昇していくというのは今では想定しにくいのではないでしょうか。また、回収見込みのない抵当権者の無理な要求に対して、買主側から対抗策がないというのは、不動産の市場での流通を著しく阻害するものがあります。

この点、抵当権消滅請求の前進である滌除は所有者の濫用的な利用という問題を内包していましたが、抵当権消滅請求制度に移行してからは、濫用的な利用が相当程度排除できる仕組みになりました。

したがって、任意売却を妨害する抵当権者への防波堤となりうる抵当権消滅請求制度にはそれなりの存続理由を見いだせるように思います。

見える抵当権と見えない抵当権の優劣

こんにちは。大阪京橋の司法書士小林一行です。

ついに消費税アップしましたね。缶詰とか日持ちのいいものを買いだめしとこうと、頭の中ではいつも思っていたのですが、バタバタしてるうちに結局買わずじまいで4月を迎えてしまいました。

税金というと、今日は抵当権と国税の優劣について相談を受けたのでブログにしたいと思います。

1、1番抵当権に優先する見えない敵

お金を貸す人が借りる人の不動産に抵当権を設定する場合、登記簿を見て先順位の抵当権登記があるかどうかを調査します。

では、先順位の抵当権がなければ、必ず1番の順位を確保できるのでしょうか。

これについては絶対そうとはいえません。

なぜなら、借りる人が国税を滞納している可能性もあるからです。

国税徴収法8条によると

「国税は、納税者の総財産について、この章に別段の定がある場合を除き、すべての公課その他の債権に先だつて徴収する。」

とあります。

つまり国税最強というのが日本の債権ルールの大原則なのです。

これが「見えない抵当権」と呼ばれるものです(抵当権ではないので比喩ですが)

他の抵当権は登記簿を見ればわかるので「見える抵当権」です。そのため登記簿の閲覧により簡単に調査することができます。

それに対して、「見えない抵当権」の調査は難しいですよね。調べようと思えば調べる事ができなくもないのでしょうが大変です。

たとえば、借りる人に所得税の滞納がないかを調べるためには、事前に支払済の数年分の領収書を提示してもらうという方法もあるかもしれません。しかしそこまでするのもどうかと思いますし、仮に見せてもらっても国税はそれだけじゃないですからね。相続税の未払いだってあるかもしれません。

そのため1番順位の抵当権で登記したとしても、ある程度のリスクは残るということになります。

2、見えない抵当権に優先する場合

それでは、抵当権は絶対に国税に勝てないのでしょうか。

実は国税徴収法16条に以下のような規定があります。

「納税者が国税の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その国税は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する。」

この規定によると「法定納期限等」より前に抵当権の設定登記をすれば、国という最強のラスボスにも勝てるという事になります。

法定納期限は個人の所得税の確定申告の場合、毎年3月15日くらいです。

そうすると、3月15日を過ぎた後に抵当権の登記を入れても絶対に国税には勝てないのでしょうか。

ここで気になるのは16条が、「法定納期限」ではなく「法定納期限等」というように「等」をちょこんと付け加えており、後者の方が前者より広い概念である事がわかります。

この「法定納期限等」の定義は国税徴収法15条1項にあります。

「納税者がその財産上に質権を設定している場合において、その質権が国税の法定納期限(次の各号に掲げる国税については、当該各号に定める日とし、当該国税に係る附帯税及び滞納処分費については、その徴収の基因となつた国税に係る当該各号に定める日とする。以下「法定納期限等」という。)以前に設定されているものであるときは、その国税は、その換価代金につき、その質権により担保される債権に次いで徴収する。」

「各号に定める日」とあるので、たとえば1号を見ると

「法定納期限後にその納付すべき額が確定した国税(過怠税を含む。)

その更正通知書若しくは決定通知書又は納税告知書を発した日(申告納税方式による国税で申告により確定したものについては、その申告があつた日)」

とあります。

この1号の具体例としては修正申告があります。

たとえば、売上漏れがあって5月20日に300万円の所得税アップとなる修正申告をしたとします。その場合の法定納期限等は、原則の3月15日ではなく、修正申告した日の5月20日になるわけです。

そうすると3月15日の段階では、発生していないと思われてた未申告分の所得税300万円が5月20日に一気に顕在化するわけです。

この300万円については、見えないどころか、「全く見えない抵当権」です。

少なくとも3月15日の確定申告で発生する所得税は予測もある程度たてる事ができます。借りる人の商売がうまくいってないから、もしかしたら所得税未払いじゃないかとか。

しかし、売上や経費をごまかしてた場合に、あとで調査が入って修正申告をするといった事はさすがに抵当権者にとって予測不可能です。

そのため、こういった予測不可能な事情はさすがにそのような事情があったとき(修正申告等)をもって、「法定納期限等」とする事で、担保を取ろうとする者に一定の譲歩をしたのでしょう。

国税怖いですね。これだけ強大な権限が与えられてたくさん税金とってるんですから、ちゃんと正しく使ってもらいたいものですね。

財産分与でいくか贈与でいくか

おはようございます。pm2.5が猛威を振るってますね。なんでも普通のマスクだと細かい粒子を通過させてしまうので、防塵用のマスクがいいみたいですよ。

ちょっと前に離婚に伴う財産分与で、夫から妻に不動産の名義を移転したいという相談を受けました。

しかしいろいろとご事情をお聞きしてみると、実際は離婚後も同居したり、生活費も一緒に負担したりするとの事で、離婚の実質を伴っているものとはいえませんでした。

確かに判例は離婚時における離婚意思を離婚届出意思のみで足りるとしているので、お互いの合意の下で離婚届を提出すれば離婚は有効に成立します。

しかし、その後も事実上婚姻生活を継続していれば、租税回避目的があったとして、あとで税務署より贈与税を課税されてしまいます。

なぜなら、離婚に伴って財産分与をする場合、贈与税はかかりません。贈与税は無償での財産移転に担税力を見出しているところ、離婚に伴う財産分与は夫婦が共に築き上げてきた財産の清算であり、無償とはいえないため、贈与税を負担させる根拠がないからです。

そのため、離婚の実質を伴ってない場合は原則に戻って贈与税が課されます。しかも延滞税つきです。

このようなリスクを取らなくても夫婦の婚姻期間が長い場合は、不動産価格2000万円までの部分につき贈与税が免除されるという特例があります。

なぜなら夫婦の婚姻期間が長い場合、当該不動産は夫婦が共同して築き上げてきた財産といえるので、贈与税の課税根拠である無償での財産移転という側面が弱くなるからです。

要件は以下のとおりです。

(1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと

(2) 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること

(3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

依頼者の方も婚姻期間が20年以上かつ居住用不動産であったため、この特例制度をご提案させていただき贈与登記をしました。

ただし、贈与の翌年に、税務署に申告をする必要があります。これを怠ると多額の贈与税がかかってしまいます。

1年くらい先で僕自身も贈与登記したことを忘れてしまうので、毎日見ている事務所のボードに念のため書いといて申告時期が来たらお客様に伝えるようにしています。

もっともこのあたりはほかにも期限のある仕事があるので、一元化してもうちょっとシステマチックに管理できないかと試行錯誤中ですが。

それでは皆さまよい週末をお過ごしください。

支払督促が妥当する場合とは?

こんにちは。今日は物販サイトの利用規約や特定商取引に関する法律の表記に関する文言のチェックについてご依頼をいただき、いろいろ文献を調べていました。

普段こういう書面チェックの依頼を受ける事はほとんどないのですが、こういう仕事をすると最近の法改正の動向とかも詳細に調べるのでとても勉強になります^^

さて今日は、支払督促のメリットデメリットについてブログにしたいと思います。

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、これは訴訟の簡易バージョンみたいなもので、例えば100万円払えというのを訴訟ではなく支払督促でいけば相手に異議がない場合、簡単に債務名義がとれて強制執行ができるようになります。

そのため使い勝手のいい制度のようにも思えるのですが、実はけっこう使いにくいものとなっているのが現状です。

1、第一回の口頭弁論期日が指定される早さ

債権を回収するのはスピードが重要です。遅ければ遅いほど相手の財産は散逸していく可能性があるからです。

この点、支払督促は相手に異議がなければ、仮執行の宣言を付してもらって強制執行ができるので債権回収が早いとも思えます。

しかし、異議を出されれば通常の訴訟に移行するので、訴訟と同じく第一回目の口頭弁論期日が指定されます。

しかしこの一回目の期日というのが支払督促を経由している分遅くなります。なぜなら支払督促の場合、異議の手続きを踏んだ上で口頭弁論の期日を指定されるところ、訴訟の場合、訴えを起こせばいきなり第一回目の期日を指定してくれるからです。

異議がどれくらい出されるかの統計はちょっとわかりませんが、異議自体は理由がなくてもかまいません。単に異議がある旨を裁判所から送られてくるひな形で送り返せばいいだけです。そのため強制執行を引き延ばすという理由のみでも異議を出してくる可能性があります。

2、管轄

管轄の点でも問題があります。支払督促は相手方の住所地が管轄裁判所になります。そのため大阪の債権者が東京の債務者に貸金債権取り立ての支払い督促を起こす場合、東京の簡易裁判所の書記官にあてて起こします。

そして債務者が異議を出せば、そのまま東京の裁判所で事件が引き継がれることになります。そのため、大阪の債権者は口頭弁論の度に時間と費用をかけて東京に出張することになります。これは請求額が少なければそれだけで訴訟を断念せざるを得ないほどのリスクです。

これに対して、最初から貸金債権の訴訟を起こしていた場合、一般的には債権者の住所地である大阪の裁判所で訴訟を起こせます。そのため交通費や時間に無駄がないです。

3、まとめ

まず、相手が遠方の場合は、上記の様にによほどの合理的理由がなければ支払督促は止めておいた方がいいと思います。異議を出された時のリスクが大きすぎるからです。

相手が近くに住んでいる場合は支払督促も考慮の余地がでてきます。その際は相手がどれくらい争ってくる可能性があるかとの兼ね合いになってきますが、基本的には理由がなくても異議自体は出せるので、その分債務名義を取るのが遅くなる可能性があります。

そのためよほどの事情がない限り、訴訟をベースに考えた方がいいのではないかと思います。