ハンコ代の要求と抵当権消滅請求

こんにちは。大阪京橋の司法書士小林一行です。

最近大阪は寒い日が続きましたね。体調管理にはぜひ気をつけて今週もはりきっていきましょう。

さて、今日は任意売却で生じる問題点、ハンコ代とその対応策についてブログにしたいと思います。

1、後順位抵当権者へのハンコ代

例えば1番抵当権の被担保債権が3000万円、2番抵当権が2000万円として、任意売却における不動産の想定売買価格が1500万円とします(諸経費とかは事例の単純化のために省略します)。

この場合、売買代金が1番抵当権の残債に満たない以上、当然に後順位抵当権者は代金の分配に与ることはできません。

とはいうものの、実際は後順位抵当権者としては抵当権までつけてるわけですし、タダで抵当権を外すのはばからしいので、抹消の書類に署名するかわりに10万円くらい売却代金の中から払ってくださいと主張してきます(いわゆるハンコ代)。

2、法外なハンコ代への対応策

20万円くらいなら想定の範囲内なので、一般的には売却代金の中から支払われるでしょう。しかし後順位抵当権者が傲慢な人で200万円くらいのハンコ代を請求してきたらどうでしょうか。

さすがにこのような法外な請求に応じる必要はないでしょう。大前提ですが、そもそも1番抵当権者が全額の満足を受ける事ができない不動産の時価において2番抵当権者が実質的に配当を受けるというのは担保法のルールからしておかしな話です。

とはいっても抵当権がいつまでも残っていては市場での不動産流通が著しく阻害されてしまいます。

こういった無理筋なハンコ代を主張する後順位抵当権者への対応策として「抵当権消滅請求」制度を利用することが考えられます(民法379条以下)。

ブログなので、同制度の説明は割愛しますが、この権利を買主が行使することにより、後順位抵当権者は競売を申し立てるか、買主が提案する承諾料を納得するかの二者択一の選択を迫られる事になります。

それでは、後順位抵当権者が徹底抗戦で競売を申し立てた場合はどうなるのでしょうか。

通常、競売では任意売却に比べて、落札価格は下がるので、後順位抵当権者が分配に与ることができる可能性はさらに低くなります。

またそもそも後順位抵当権者の競売申立ては無剰余として取り消される可能性もあります(民事執行法63条)

取消しになれば、後順位抵当権者はみなし承諾をしたことになるので(民法384条4号)、これにより後順位抵当権者の抵当権は無配当により消滅します。そのため抵当権消滅請求の主張は通った事になります。

いずれにせよ、後順位抵当権者にしてみれば、最初に常識的なハンコ代をもらっておけば、いくらかでも回収できた債権が全く回収できない事になってしまうわけです。

3、落札されない場合のリスク

もっともここまで強気でいけるのは競売で不動産が落札される事を前提にしているからです。3回入札を実施しても落札されなければ、やはり競売が取り消される可能性があり(民事執行法68条の3)、この場合における競売取消では抵当権のみなし承諾の効果は発生しません(民法384条4号のかっこ書きにおいてかかる場合の取消を排除しているため)。

そのため、このような場合は、競売をしたにも関わらず抵当権がはがれないままになってしまいます。

しかし、不動産が競売で売れる見込みがあるのでしたら、抵当権消滅請求は、無理なハンコ代を請求する抵当権者への抑制力として働くのではないでしょうか。

4、抵当権消滅請求の制度としての合理性

ちなみに、抵当権消滅請求の制度は、いつ抵当権を実行するかを自由に決める事ができるという抵当権者の期待を害するものであって制度上問題視する見解もあるうようです。

例えば、不動産の時価が上昇局面にある場合、抵当権者としては時間をかけて放置しておけば、不動産の時価が被担保債権額を上回る可能性があります。抵当権消滅請求は実行時期を強制的に前に持ってくるので、そういった抵当権者のいつ実行するかを自由に決める事ができるという期待を害するというものです。

しかし、バブル期ならばともかく、不動産価格が右肩上がりで上昇していくというのは今では想定しにくいのではないでしょうか。また、回収見込みのない抵当権者の無理な要求に対して、買主側から対抗策がないというのは、不動産の市場での流通を著しく阻害するものがあります。

この点、抵当権消滅請求の前進である滌除は所有者の濫用的な利用という問題を内包していましたが、抵当権消滅請求制度に移行してからは、濫用的な利用が相当程度排除できる仕組みになりました。

したがって、任意売却を妨害する抵当権者への防波堤となりうる抵当権消滅請求制度にはそれなりの存続理由を見いだせるように思います。

特例有限会社の代表取締役変更登記の注意点

こんにちは、大阪京橋の司法書士小林一行です。

昨日は特例有限会社の代表取締役変更登記を大阪法務局に申請してきました。

登記の申請をした次の日は、法務局から補正の電話がかかってこないか、びくびくしているのですが、それでも商業登記は不動産登記に比べて補正も少ないのでまだ安心感はあります。

しかし今日は電話かかってきました。

理由ですが、特例有限会社の場合、株式会社と異なり取締役の住所は登記事項になっています。

その取締役が代表取締役として就任する場合、印鑑証明書が添付書類となりますが、当該印鑑証明書の住所と登記されている取締役の住所が異なる場合、取締役の住所変更の登記も必要になるところ、その登記を見落としてました。

お客様に住所の移転日を確認して補正に行ってきます。

幸い担当の登記官がとても優しい方で、委任状は取り直さなくても捨印で対応できるとのこと。

まずは登記事項証明書をみて、申請する書類一式とどこかに齟齬がないか徹底的にチェックするクセをつけないとダメですね。

反省の一日です。

見える抵当権と見えない抵当権の優劣

こんにちは。大阪京橋の司法書士小林一行です。

ついに消費税アップしましたね。缶詰とか日持ちのいいものを買いだめしとこうと、頭の中ではいつも思っていたのですが、バタバタしてるうちに結局買わずじまいで4月を迎えてしまいました。

税金というと、今日は抵当権と国税の優劣について相談を受けたのでブログにしたいと思います。

1、1番抵当権に優先する見えない敵

お金を貸す人が借りる人の不動産に抵当権を設定する場合、登記簿を見て先順位の抵当権登記があるかどうかを調査します。

では、先順位の抵当権がなければ、必ず1番の順位を確保できるのでしょうか。

これについては絶対そうとはいえません。

なぜなら、借りる人が国税を滞納している可能性もあるからです。

国税徴収法8条によると

「国税は、納税者の総財産について、この章に別段の定がある場合を除き、すべての公課その他の債権に先だつて徴収する。」

とあります。

つまり国税最強というのが日本の債権ルールの大原則なのです。

これが「見えない抵当権」と呼ばれるものです(抵当権ではないので比喩ですが)

他の抵当権は登記簿を見ればわかるので「見える抵当権」です。そのため登記簿の閲覧により簡単に調査することができます。

それに対して、「見えない抵当権」の調査は難しいですよね。調べようと思えば調べる事ができなくもないのでしょうが大変です。

たとえば、借りる人に所得税の滞納がないかを調べるためには、事前に支払済の数年分の領収書を提示してもらうという方法もあるかもしれません。しかしそこまでするのもどうかと思いますし、仮に見せてもらっても国税はそれだけじゃないですからね。相続税の未払いだってあるかもしれません。

そのため1番順位の抵当権で登記したとしても、ある程度のリスクは残るということになります。

2、見えない抵当権に優先する場合

それでは、抵当権は絶対に国税に勝てないのでしょうか。

実は国税徴収法16条に以下のような規定があります。

「納税者が国税の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは、その国税は、その換価代金につき、その抵当権により担保される債権に次いで徴収する。」

この規定によると「法定納期限等」より前に抵当権の設定登記をすれば、国という最強のラスボスにも勝てるという事になります。

法定納期限は個人の所得税の確定申告の場合、毎年3月15日くらいです。

そうすると、3月15日を過ぎた後に抵当権の登記を入れても絶対に国税には勝てないのでしょうか。

ここで気になるのは16条が、「法定納期限」ではなく「法定納期限等」というように「等」をちょこんと付け加えており、後者の方が前者より広い概念である事がわかります。

この「法定納期限等」の定義は国税徴収法15条1項にあります。

「納税者がその財産上に質権を設定している場合において、その質権が国税の法定納期限(次の各号に掲げる国税については、当該各号に定める日とし、当該国税に係る附帯税及び滞納処分費については、その徴収の基因となつた国税に係る当該各号に定める日とする。以下「法定納期限等」という。)以前に設定されているものであるときは、その国税は、その換価代金につき、その質権により担保される債権に次いで徴収する。」

「各号に定める日」とあるので、たとえば1号を見ると

「法定納期限後にその納付すべき額が確定した国税(過怠税を含む。)

その更正通知書若しくは決定通知書又は納税告知書を発した日(申告納税方式による国税で申告により確定したものについては、その申告があつた日)」

とあります。

この1号の具体例としては修正申告があります。

たとえば、売上漏れがあって5月20日に300万円の所得税アップとなる修正申告をしたとします。その場合の法定納期限等は、原則の3月15日ではなく、修正申告した日の5月20日になるわけです。

そうすると3月15日の段階では、発生していないと思われてた未申告分の所得税300万円が5月20日に一気に顕在化するわけです。

この300万円については、見えないどころか、「全く見えない抵当権」です。

少なくとも3月15日の確定申告で発生する所得税は予測もある程度たてる事ができます。借りる人の商売がうまくいってないから、もしかしたら所得税未払いじゃないかとか。

しかし、売上や経費をごまかしてた場合に、あとで調査が入って修正申告をするといった事はさすがに抵当権者にとって予測不可能です。

そのため、こういった予測不可能な事情はさすがにそのような事情があったとき(修正申告等)をもって、「法定納期限等」とする事で、担保を取ろうとする者に一定の譲歩をしたのでしょう。

国税怖いですね。これだけ強大な権限が与えられてたくさん税金とってるんですから、ちゃんと正しく使ってもらいたいものですね。