会社に雇用されている労働者の方が自己破産をする場合、退職金債権をどのように扱うかが問題になります。
仮に会社を辞めたとしたら、もらえるであろう退職金は破産者の資産です。
そのため、会社を強制的に退職して作った退職金を債権者に分配しないと自己破産が認められないのではないかとも思えます。
この点ガチガチの法律論からいくと破産法は、管財人による契約解除権を認めています。
同法53条1項 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
労働契約も将来の給付に関しては双方未履行といえるので、当該条項が適用されるからです。
そして、債権者に公平に破産者の財産を分配するためには、管財人は積極的に解除権を活用して、破産者と勤務先との労働契約を解除すべきとも思えます。
しかし、一方で労働契約は他の契約と異なり、労働者の生活の糧をなすものです。当該契約を安易に解消できるというのでは、労働者の地位は著しく脅かされます。ここでは、憲法、労働法上の解雇権濫用の法理が働き、労働者の破産をもって、当該労働契約は解除できないと解するべきです。
そのため、実際の破産実務でも、労働契約の解除まではなされず、退職金に相当する額(実際は、差し押さえ禁止財産としての側面や将来の倒産可能性も考慮して8分の1に相当する額 大阪地裁の場合)を収めればいいことになっています。
もっともこの、8分の1に相当するお金をどのようにして用意するかという問題は残ります。実際当事務所でも、同様の事例があったのですが、勤務先から借り入れをしてもらう事で、対応していただきました。
破産手続き中の借入のため、免責不許可事由に該当するともいえるので、一応裁判所に勤務先から借り入れすることの上申書を出して許可をもらってから借り入れをしました。
破産手続き中の借り入れが問題とされるのは、他の債権者の弁済に充てられる事で債権者間の公平を害する事や、免責がされることを前提に借入れをする事が詐欺的な行為だからです。
しかし、勤務先は退職金債権が担保になっているため、破産者に貸し付けをしても将来回収が容易です。また、破産財団に組み込む(それがひいては各債権者に公平に分配される)ために、借入をしているので、債権者間の公平を害するとはいえないでしょう。
この点、破産法72条2項4号は、破産者に対して、債務を負う者が、破産者との間で契約をする事により破産債権を取得する事について、相殺禁止事由から除外しています。これは新規貸し付けをする者が回収不能リスクを負担していないことから、認められたものであり、本件のような勤務先からの借り入れにもあてはまるものといえるでしょう。
もちろん、毎月少しずつお金を貯めることができるならば、毎月の積立金で退職金相当額を収めるという方法もあります。しかし裁判所も長期の分割には応じてくれません。依頼者の方は収入から支出を引いたらお金がほとんど残らない家計の状態だったので、このような借り入れをせざるえなかったという面があります。