以前に、以下のような相談を受けました。
お金を貸した人がその事を公正証書にしたのですが、借り手があとになって借りていないと争ってきました。公正証書があるのに強制執行が認められない事なんてあるのでしょうか?というものです。
結論から言うと認められない可能性はあります。
確かに公正証書は公証役場において、資格のある公証人の立ち会いの下で作成されます。
そのため、当該証書に記載されている事実(たとえば金銭消費貸借の事実)は実際に存在するものとの強い推定が働くでしょう。
しかし、公正証書が作成されたという事実は消費貸借の事実を証明する上での間接事実のひとつにすぎません。
そのため、消費貸借がなかった事を推認させる事実を主張立証する事によっていくらでもひっくり返される可能性があります。
例えば、借り手が代理人をたてていて実際は公証役場に来ていなかった。その委任状も偽造っぽい。貸している額が1000万円と大きいのに、銀行振り込みではなく手渡しで貸与しているのは経験則に反する。当事者は知り合って間もないのにいきなり大金を貸すのは不自然。大金を貸したにも関わらず、貸し手の預貯金にお金の動きがないetc
公正証書は強制執行をしやすくするものの、確定判決のように既判力が生じて権利関係を動かせなくなるわけではありません。
何が言いたいかといいますと、公正証書を作成したという事実は、あくまで消費貸借をした事を推認させる一間接事実にすぎないのです。いざ争いになったときに備えてその他にも証拠をしっかり固めておく必要があるという事です。
そのためには公正証書を作成する際に、公証役場に借り手の代理人を連れて行くというのはよほどの理由がない限りやめておいた方がいいです。また、金銭授受も手渡しより銀行口座への振込の方がお金の流れについて証拠になります。どうしても手渡しが必要な場合でも第三者に立ち会ってもらえば証人になってもらえます。他にもお金の流れをきちんと説明できるようにしておく必要があります。
ここまで書くと、公正証書は作る意味がないようにも思えますが、そんな事はありません。やはりいきなり強制執行できるというのは借り手に強い心理的プレッシャーを与えますし、公正証書自体が消費貸借の事実を証明する上で有力な証拠になる事は間違いありません。
しかしそれだけではダメで裁判となる事までをも想定して、他の証拠をも加えてしっかり補強させておいた方がいいという事です。
問題が起きてから証拠を作るより、最初に証拠をしっかり固めておく方がはるかに簡単です。
紛争は起きるより起きない方がいいに決まってますからね。予防法務をしっかりして気持ちよく取引をしたいものです。