こんにちは。一気に冬モードに突入しましたね。事務所では初ストーブでした。
借金の時効について中断事由をチェックに続きまして時効ネタです。
時効期間(たとえば5年)が経過しても債務者(消費貸借の場合、借り手のことです)が、時効を援用しないと借金は消滅しません。借りたお金はすべて返したいと考える方もいらっしゃるので、時効を主張するか否かを本人の意思に任せる趣旨です。
そして、時効を援用するためには、時効期間経過後、借金(債務)の存在を承認していない事が必要とされているのが原則です(時効期間の経過を知っていると否とを問わず)。
なぜなら、債務者が借金の存在を認める挙動(たとえば借金の一部を弁済する等)をとった場合、債権者としては、以後時効の援用はされないであろうという期待が生じ、その期待を保護すべき要請が出てくるからです。
そして、相手の期待とか信頼を法律用語では「信義則」とか言ったりします。判例もこの信義則を理由に時効期間経過後、一部弁済をした債務者の時効の主張を排斥しました(昭和41年4月20日最高裁判決)
この昭和41年の判決は、法律の勉強をした人なら一度は見たことのある有名判例ではないでしょうか。
しかし、下級審判例で最近、債務者の一部弁済後の時効援用を認める判決がいくつか出ているようです。
たとえば東京簡易裁判所平成25年3月15日判決は、債務者の一部弁済後の時効援用を認めました。
もっとも、この判例も昭和41年最高裁判決を前提としており、同判決と異なる判断を示したわけではありません。
41年最高裁判決は、前述のように信義則を理由として、債務者の時効援用を認めていません。
逆に言えば、一部弁済後の時効援用でもそれが信義則に反しないようなものだったら、時効援用を認めても昭和41年判決の射程に属するものといえるでしょう。
本事例でも、昭和41年判決の規範(信義則)を前提としたうえで、債務者は、債権者の半ば脅迫的な取立てを逃れるために仕方なく2000円だけ払ったこと、5年で時効の本件においてすでに10年もの年月が経っていたこと、債務者が債務の承認をしてから一か月も経たないうちに、訴訟を提起していることなど本件の特殊事情を考慮して、債務者の時効援用を認めました。
よく債権者が債務者の不知に乗じてとりあえず少額の弁済だけさせて債務を承認したことにさせたり、時効期間を偽って、本当は時効期間が経過しているのに、時効期間はまだ経過していないと言って弁済させたりするのも、債権者に法的保護に値する期待があるとは言えません。
このような場合も前述の昭和41年判決(信義則を理由としたからこそ時効援用を認めなかったという規範)からすれば、時効の援用は認められる可能性があるので、あきらめてはいけません。